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大魔法使いミリアーナ


作家の名前: みーこ

大魔法使いミリアーナ


□登場人物

ミリアーナ・フラーゼ Miriana

茨木留美の転生キャラ。主人公。

サチ・グラシエール Sachi

ミリアーナの幼友達。

エマ・シャーロット Emma

魔法高等学校のヒロイン。

アリス・クラエス Alice

エマの幼友達。


□目次

第一章 最初の記憶

第二章 一年目

第三章 north islandへの道 前

第四章 north islandへの道 後

第五章 訓練場


▓第一章 最初の記憶

「…」

私って誰だっけ。

私はこういう事がよくある。

(5歳にしては情報が多すぎる)

そうなのだ。

私の中では納得しているが、私には多分前世がある。

名前は茨城留美。

独身だった。

そこまでは覚えているのだが。

キーン。ガンガンガン。

(うっ)

頭が痛い。

耳鳴りがする。

その時一瞬だけだが顔が表示される。

見たこともない顔。

それが前世だと思う。

私の部屋には、本棚がいくらかあるので読んでみた。

(読めない…)

政治について知ることができないなら、まずは頭の中の情報を整理しよう。


     前世


     現代

   漫画作成者

     → 

      ───

   20歳(独身)

     →

     5歳

    庶民

     → 

   フラーゼ家

(情報量少なっ)

5歳はこれでも耳鳴りがするのか。

(ん?)

あのメイド、見たことがある。

リリ。

リリだ。

私がストーリーを尽くしまくったあのゲームの。

…リリがいる?

つまり私は。

悪役令嬢だ。

まあいい。

「リリ」

「は、はい!なんでしょう、お嬢様」

ビクッと肩を震わせて部屋の掃除をしていたリリが振り向いた。

そりゃあそうだ。

私は無口だから。

「字を習いたい。どうにかしてくれる?」

「はいっ!今すぐ家庭教師を派遣いたします!」

リリがそそくさと部屋から出てゆく。

(嫌われているのか?)

私は短いため息をついてストーリーを書き始めた。

といっても前世の日本語でだが。

レベル

ヒロイン

エマ・シャーロット

Lv.98(入学時)

Lv.305(卒業時)


アリス・クラエス

Lv.104(入学時)

Lv.541(卒業時)

悪役令嬢

ミリアーナ・フラーゼ

Lv.999(入学時)

Lv.999(卒業時)


サチ・グラシエール

Lv.673(入学時)

Lv.974(卒業時)

うん。これであって…。え?

嘘だ。

私レベル変わってない…。

入学時から最強レベル?

これはまずいよ。

ストーリー上、悪役令嬢…ミリアーナはヒロイン…エマをいじめることになっている。

今のレベルは、Lv.1。

いじめるよりレベルアップに努めないと…。

「お嬢様!家庭教師を派遣いたしまし…あら?お嬢様〜。お嬢様〜。何処にいますか?返事してくださ〜い」

私はリリがくるより先に身支度を整え。

近くの森へとかけていったのだった。

「…ごめんよ。リリ」

私は叢(くさむら)に隠れて呟く。

「お嬢様〜!返事してください!」

リリの声が遠くで響く。

(ヤバ。近づいてきてる)

私はカサッと音を立てて茂みの中に潜った。

「っ!」

(スライムだ。Lv.1で倒せるのか?)

私は手を前に出して、「エイッ」っとスライムに向ける。

シャン──

スライムが弾けて塵になると同時に中から石が出てきた。

(よし。魔石ゲット!)

魔石とは行商人と物々交換をするアイテムだ。

(前世でいうと…金だな)

私は深くへと潜っていく。

「お嬢様〜?」

(はい?リリ、来るのはや!)

私は走ろうとした。

「お嬢様、見つけました!」

軽々と持ち上げられてしまった。

「…見つかった」

私はリリに魔物を倒したことがバレないようにぎゅっと手を握った。

「何を持っているのですか?」

リリが私の顔を覗いて聞いた。

「リリには関係ない」

私がぶっきらぼうに答えるとリリが拘束魔法で動きを封じた。

「あら。魔石?」

リリが私の手から転げ落ちた魔石を拾った。

「ちょっと。見ないでほしかったのに」

「仕方がないです。何を倒したのですか?」

リリが優しい口調で尋ねる。

「…ス…スライム」

私はそっぽを向いた。

リリの顔を見ていたら涙が零れそうだったからだ。

決してリリが悪いわけでもない。

私は精神的に罪悪感を感じていた。

(家庭教師もわざわざ頼んでもらったというのに…。令嬢だからって、調子に乗りすぎた…)

「…スライムですか。私が最初に倒したのもスライムでしたよ」

(同じだって言いたいの?私は…私はリリと違って今は庶民じゃない)

「庶民と同じにしないで」

私は相当ひどい言葉をリリに投げかけてしまった。

(だめだ。私の癖。前世からあるんだ…暗い雰囲気)

だから私はネガティブ思考だと…。

「…」

リリは黙っている。

沈黙に耐えきれず、涙腺が弾けた。

ヒックと喉が震えた。

冷静でいなくては。

レベルアップも何も、字が読めなければ始まらない。

(そんな事も考えず、浅はかな行動を…。本当に申し訳ない)

心のなかで謝ると、心を見透かしたようにリリが微笑んだ。

「勝手な行動などではありませんわ。謝る必要は全くございません。お嬢様は自分の心の思うままに仰っただけなのですから」

リリが私のことを抱きかかえた。

「リリは…なんでそんなにいい人なの?」

「…お嬢様と私の境遇が同じだったからですわ」

「…そう」

リリは遠くを見つめていた。

まるで昔を思い出したかのように。

リリは口を開いた。

「…お嬢様は…」

そこまで開きかけリリは口を噤(つぐ)んでしまった。

「…なんでもないですわ」

リリにはきっと辛い過去があるのだろう。

(…関わらない方が良い。デリケートなところまで追い詰めてしまったのか)

私はすぐに諦めるとリリの腕の中で目を瞑(つむ)った。


▓第二章 一年目

私はリリが派遣した家庭教師──カミラに字から始まり、政治の動きまで教えてもらった。

私の年齢…今は7歳。

森に逃げ出したのが二年前だとか。

…今では遠い夢のようだ。

大体の授業は森の中に行って魔物を倒す。

昨日の授業は10時間すべてダンジョン攻略に尽くした。

「わかりますか?」

「…うん。とってもわかりやすいよ」

私は手持ちのノートに板書しながら答えた。

「ありがとうございます。今日で最終日です。…お嬢様も大きくなって」

「…そう…だね。…あれが今では遠い昔のようだ」

「あれ」と指示語を使ったのでカミラに「あれ」の内容が伝わったかどうかはわからないが、

「そうですね」

とカミラはニッコリと微笑んでくれた。

カラン──

家の隣りにある──強いて言えばくっついている──カフェ「Cafe race」に客が入る音がした。

「ん?raceに入ったね。依頼かな…」

Cafe raceにはドアが2つある。

左側は「入口」という張り紙が貼られていて、右側は「出口」と貼られているが、出口のドアからraceに入ると入口よりHz(ヘルツ)が本当に少し高くなる。

(左側のHzは6748Hz。右側は7153Hzらしい。何百回も聞かされればもう区切りはつく)

「行ってらっしゃい」

「ありがとう。リリに伝えといて」

「承知致しました」

私が自分の部屋から出るとズラッときれいに使用人の道ができる。

(堅くなるなって)

「そんな堅くならないでよ。あなた達の家も同然なんだから…」

堅くなるとは──緊張することらしい。母上が仰っていた。

「…」

誰も答えることなく少しも微動だにしない。

(通りづらいのだが…)

私は気持ちをひた隠しCafe raceに向かった。

「こんにちは。店長のミリアーナ・フラーゼなう」

寝不足で目を半分閉じながらガクッと勢いよく頭を下げた。

「…。お嬢様、敬語をお使いになって」

リリが眉を潜めた。

「…すみません」

リリが元気ポーションを手渡しする。

「…ありがとう」

私はゴクゴクとポーションを飲む。

「うまい…」

私は挨拶をもう一度する。

「ミリアーナさんですか」

女が聞いた。

(ミリアーナお嬢様…いや、ミリアーナ様…ううん。偉大な御方とお呼びなさいな)

「そうです」

「依頼なのですが…この子、知っていますか?」

女は懐から写真を取り出した。

「これは…」

その写真に写っていたのは…何年か前に家が全焼したと話題になっていた家に住んでいた当時4歳の女の子だ。

「この子は、うちの娘です。全身火傷で、話せるのもあと…数ヶ月の状態です」

女は目を伏せた。

私が顔を覗くと、女の目の淵にはキラキラ光る物があった。

 

泣かせてしまった?

泣いているのか。

子供を失う辛さがひしひしと伝わってくる。


私はあえて突き放して聞いた。

「それで?」

女の口から答えを聞きたかった。

私は底意地の悪いやつだ。

泣いている人に依頼の事情を話させるなんて。

自分で依頼の内容などわかっているくせに。

「うちの娘を助けてやってくれませんか?」

女の目から落ちた。

私はよく見ていた、その瞬間を。

いつでも実況中継できるぐらい。

キラキラと光るものがたまり、表面張力が耐えられなくなり…。


落ちた。


落ちる。


落ちる──。


リリがきちんと掃除している床に黒い染みができた。

一つ落ちた。

それからは猛スピードだった。

二つ。

三つ。

四つ。

五つ──。


私は数えるのをやめた。

女に聞く。

「いいですよ。しかし…どこに入院されているのですか?」

「ここです」

嗚咽が混じった声で地図を指す。

私が差し出したハンカチを受け取り涙を拭いた。

「north island…」

地図には「north island」と書かれていた。

…翻訳すると「北島」。

この世界は名前をつけるのもテキトーだな。

「わかりました。行きます」

「お嬢様」

私はリリが用意した椅子に腰掛けた。

「家に帰っててください。早ければ一週間で終わらせます」

「遅ければ…?」

「嬢の命の灯火が消えるまで」

女の整った眉がつり上がった。

黒いシミがどんどん広がる。

しかし、女は何も言わなかった。

「………………」

沈黙が流れる。

他の客は私達の雰囲気を知らず、楽しんでいた。

「わ、わ、わ…わかりました…」

女は出口から出ていく。

(6748.647Hz…だな。後で直してもらおう)

私はリリと一緒に邸宅へと戻った。


▓第三章 north islandへの道

「お嬢様。本当にnorth islandに行くのですか?」 

リリが整った眉を下げた。

完全に心配している様子だ。

「じゃあジャッジして」

私は両手を大きく広げた。

ジャッジとは、レベルや魔力値、幸運値、防御値…などのステータスを知ることのできるスキルだ。

他にも紋章やスキル、かかっている呪いや天運などもわかる。

ジャッジ。

リリが私の体に手をかざした。

ちなみにジャッジができるのは白紋章のみ。

メイドにはおなじみのリリ、アメリ、メアリー…等々。

この三人は私のことを良く面倒見てくれていて、同級生だ。

リリは白紋章。

アメリは青紋章。

メアリーは黒紋章。

「お嬢様のレベルは869。魔力値946、防御値832赤、青、緑、黃、水、黒、白、橙紋章。スキル、従魔の鈴。従魔フェンリル。呪いなし、天運、神の使い」

リリが出てきたまま、ステータスを読んだ。

「うん。間違いなく強くなってる」

私は腰の隣で拳を作る。

(Lv.869か…あと十数年でレベル+130…。経験値にすると大体74842か)

「Lv.999まであと+130ですね!」

アメリが胸の前で手を合わせる。

「ありがとう。アメリ」

私はニコッと笑った。

「「「お嬢様の微笑みは久しぶりですわね」」」

(三人とも口を揃えるとは…)

私は少し呆れ顔になった。

「経験値にすると大体75000ね…。まあ、お嬢様は頭の中でとっくに計算しているでしょうけど」

「よく分かるねメアリー」

私は空中浮遊魔法でメアリーと目線を合わせ、メアリーの頭をポンポンとなでた。

「ありがとうございます、お嬢様」

メアリーは冷徹にキリッと引き締めている頬を赤らめる。

「お嬢様。依頼のnorth islandまで行く船は…あと、20分ほどで発車いたしますよ。行かれないのですか?」

「ああ、リリ。ありがとう」

私はリリの手に惹かれて船に乗り込む。

「メアリーとアメリは来ないの?」

私はメアリーとアメリを振り返る。

「伺ってもよろしいのですか?」

アメリがスマホ片手に答えた。

「私はいいけど…お父様が何をおっしゃるかわからない!聞ける?」

私は生まれて初めての大声を出した。

「畏まりました」

「フェン、リル。遊ぼ」

フェンとリルはフェンリルの双子で、二頭共私の従魔である。

従魔とその持ち主は念力で話すことが出来るようになる。

(まあつまり他の人から見たら犬に話しているやばいやつってことだな)

『『何して遊ぶの〜?』』

フェンとリルは声を揃えて言った。

「何がいい?」

『『かくれんぼ!』』

私はその回答を聞いて少し呆れ顔になった。

「ああ〜。ちょっと難しいかも」

私が言うとフェンとリルが合わせて言う。

『『じゃあ、鍛えたい!普通に』』

「OK。じゃあ訓練場行こう」

『『うん』』


「リル、強くなってる!防御魔法の分子、細かくしないと貫通しそうになるよ!」

私は少し傷ついた防御魔法をさすった。

(防御魔法を触ったのは久しぶりだな。前と同じ手加減だったからリルの強さが実感できる)

『やった〜!フェン。頑張ってね!』

私の思いとは裏腹に、リルは人間であれば満面の笑みを浮かべているであろう顔をフェンに向けた。

『絶対リルに勝つ自信あるもん!』

するとフェンはリルの言葉を否定する。

(さて、どうかな)

『ふん、勝てないよ!』

リルは自信満々な様子だ。

「ほら、理論なんか言ってないで行動で示しなよ、行動で」

私がわだかまりを溶かそうとすると。

『ほらやっぱミリアーナは私の味方してるでしょ、リル』

フェンはよくわからないが鼻を鳴らした。

『そうやって感じるのフェンだけだと思うよ』

「早く!」

『リル黙っててね』

『そっちこそ!』

私は仲直りをさせ、訓練場に歩いていった。


カン。

カン──。

カン──。

カン──。

「フェン。降参?」

私は意地悪い笑みを浮かべた。

『まだ…っ、ま…だっ』

フェンは新しい技の準備をする。

『降参した方が身のためだよ、フェン』

リルがフェンの隣まで歩み行き、ペロッとフェンの頬を舐めた。

『まだなのっ!』

「魔力が…膨らんだね、フェン」

フェンが少し笑った。

「本気を出すのはここからだ」


▓第四章 north islandへの道

「本気を出すのはここからだ」

(やば。チョビっと大袈裟だったかも)

『ここまで膨らむもん…?』

リルが眉を下げて聞いた。

「知らない」

話をしている間もどんどん膨らんでゆく。

『これが最大出力よ』

「これが…ねぇ。大して強くないじゃない」

私が茶化すと少しずつ魔力が膨らんでゆく。

『まだ最大出力じゃないでしょ』

『リルはうるさい。私はミリアーナと戦っているんだから』

「そう。じゃあ早くその成果見せてよ。フェン」

私はリルの耳の付け根と目じりのあたりに触れた。

『クゥン』

リルが甘えた声を出す。

『リルにかまってないで私を見て。ミリアーナの対戦相手は私。やるよ』

フェンがグルルルルと唸り声を上げた。

(ちょっとした威圧感…。きっとこれで狩りをしていたんだ)

フェンが飛びかかってくる。

「全身見えてるよ。フェン」

拘束魔法。

私は全身が見えることで拘束できる「拘束魔法」を使う。

(リリに教わった魔法、使いやすいよ。有難う)

『そんな…』

『私の勝ちー』

リルがモールス信号で「W・I・N」と言った。

「わざわざモールス信号使う必要ある?」

『ないかも』

私はリルに膝枕をしてしっぽの付け根をグリグリと撫でた。

リルがお腹を見せてきたので、お腹をなでてやる。

『拘束魔法解いてよ』

「自分で解きなさい」

私は突き放して言った。

『私自分で解けるからかまってもらえるの〜』

リルが意地悪い笑みを浮かべた。

『じゃあ解いてるの見せてよ』

フェンが倒れたまま睨み上げる。

「うん」

拘束魔法。

『同じ魔力?』

「フェンよりチョビっと強いかも」

私が答えるとフェンが顔をしかめた。

『解けなかったら、私もかまってね』

(フェンはヤキモチ焼きなんだね。ここまで他の動物がかまっててもそんなに…。可愛いな)

私が考えているとフェンの魔力がドカンという音を立てて膨らんだ。

『拘束魔法解いたよ。リル』

「じゃあ次はリルの番ね」

『うん!』

1秒。

2秒。

3秒。

4秒。

5秒。

6秒。

バリン!

『やった〜解けた!』

「リルすごい!」

私は飛びついてきたリルを抱きしめる。

『じゃあ私も…』

フェンが言いかけるとバン!という音を立てて扉が開いた。

「リリ?」

私が振り向くとそこには、知らない男が立っていた。

「ん゙!」

私の悲鳴を防がれる。

(息ができない…。意識が飛ぶ…)

私の意識が朦朧としてきて目を瞑った瞬間。

『ミリアーナを、離せぇぇぇ!!!!』

私にはそう聞こえたが、男からしたら

グォォォォォォ!!!!

と聞こえているだろう。

それはフェンの声だった。

男は咄嗟に私から手を離し、ドアの取っ手に手をかける。

「熱っ」

男は私が火魔法を掛けている錠前に触れ、手を抑えた。

「ゴホッゴホッ、ヒュー」

私は息を整え大きくなったリルの背中にもたれかかる。

拘束魔法。

私は息を整えてから冷静に聞いた。

「なんでこういうことすんの?この胡麻の蠅が」

私は腕を組み男を見下ろす。

『そうよそうよ!ミリアーナを傷付けたらただじゃ置かないんだから!』

リルが男に威嚇する。

「…金目当てさ」

男はフッと笑った。

(人の事攫おうとして何その態度。キショッ)

「金?じゃあ邪魔だし帰っていいよ」

『え?いいの?ミリアーナはそういうところ優しすぎるんだから』

フェンがキョトンとした顔をして小さく戻った。

「ふ。さらばさ」

男の拘束魔法を緩めて扉を開ける。

「…は?」

私は声を出した。

ひどい有り様だ。

船が進んでいなかったのもそういうことか。

リリは口から血を出し倒れていた。

アメリとメアリーは睡眠薬で眠らされているようだ。

船長──老人の使用人オリバーは頭から血を流して倒れている。

もう男は消え去っていた。

魔力探知からするにソイツは7km程離れた場所にいるようだ。

「リリ!しっかりして」

私は涙ながらにリリを揺する。

(リリ…死んでしまうの?)

私は回復魔法で意識を戻す。

「…お嬢様…大丈夫…そうですね…」

リリがか細い声を出した。

「ごめんね。待たせちゃって。すぐ治すから」

私はリリの体に手をかざした。

が、安堵のあまり手に力が入らない。

「このような…傷、すぐに…直せます…ヒ…ヒ…」

ヒール

リリの周辺からおぼつかない光が溢れ出す。

最初にリリの傷から治って行き、その光はみるみる間に明るくなっていった。

「お嬢様?すみません、私達の不都合で危険にさらしてしまいっ!?」

「メアリー!それに、アメリ…。良かった…。生きててよかったよ…」

私はメアリーとアメリを抱きしめた。

「そうですね」

アメリが私の背中を擦った。

「すまない。結界を張っておいたはずじゃが…。フラーゼ殿にも頼まれていたのじゃがな。ミリアーナ嬢が無事で何よりだ」

「オリバー!」

「嬢…」

私達は硬いハグをして、north islandに向かい始めた。

「結界貼っとくね」

Magic that creates a barrier!

硬い結界が見る間に貼られてゆく。

「これで大丈夫…なはず」

私は室内の部屋に戻った。

「ごめんね、フェンにリル。本当はこんなはずじゃなかったんだけど」

私はフェンとリルの首筋を交互に触れる。

(癒やされる…)

『いいの。ちょっとした修行になったよ』

リルは私の顔を舐めた。

『ミリアーナの論破方法のね』

フェンもリルと同じように首を伸ばしてペロ、と顔を舐めてきた。

『論破って言ってももっと論破するときはするからね』

「そうだね」

私は椅子に座って読書を始める。

「そうだ」

パタ、と本を閉じ部屋の外へ出た。

「リリに、アメリ、メアリー?こっちの室内に入ったら?あとオリバーも、室内運転にしなよ」

「「「そうします!」」」

「たしかにそれが安全じゃな」

四人が一斉に室内に入ってくる。

オリバーは定位置に戻って運転を始め、メアリーとアメリは私の反対側に、リリは私の隣に「失礼します」といって座った。

「何の本をお読みになされているのですか?」

リリが私の読んでいる本を指差した。

「To the wide world──魔導書だよ」

To the wide world…翻訳すると広い世界へ、だ。

「そうですか。五巻まで分かれていますが、何ページまであるのですか?トータルで」

「2797ページ。今読んでるのは二巻」

私が答えると外で音がした。

カンカンカン。

コンコンコン。

「誰か来たのかな?見に行ってくる」

「そんな。お嬢様をこれ以上危険にさらすきはありません」

アメリが立ち上がった私を止める。

「私にはリルがいるもん。それにフェンも」

「…」

三人とも黙ってしまった。

「誰かついてくれば」

私はため息をついて言った。

「「「私が行きます!」」」

「じゃあ四人で行こう」

「「「はい!」」」

カチャリ

私達はドアを開けて外に出た。

「サチ!?」

結界をドア代わりにしてコツコツと叩いていたのは、幼馴染のサチだった。

「ハロー、ミリー。速報だよ!」

「ていうか、何でここわかんの?」

「ひ・み・つ!」

サチは唇に手を当てた。

身長は低いくせに見た目が大人っぽいんだよな。コイツ。

カールした髪。

リップクリームを塗った唇。

一つの罅割れもない色白な肌にはアクセントの黶。

きらびやかなドレスで空を舞う姿はまるで蝶々のようだ。

そんな私の内には知らず、高いトーンで言葉を続けた。

「エマ・シャーロットと、アリス・クラエスがね…」

サチは少し間を開けて口を開いた。

「何」

エマもアリスも男爵令嬢だ。

貴族の爵位のひとつ、子爵の下位であり、日本の華族令では最下位に当たる。

対して金持ちではない。

だって私、公爵令嬢だもん。

サチも公爵令嬢だけどね。

同じ位じゃないと仲良くできないから。

「魔法高等学校入学するって」

「フゥン…」

私は再び本に目を戻す。

「…ハァァァッ!?!?!?」

「アハハハハ!その反応、小さい頃から変わんないね〜」

「待って、待ってよ!…あ、そっか。あいつもギリギリ華族なのか…」

私はリリに、「赤、青、緑、黃、水、黒、白、橙だっけ?」と聞いた。

「そうです」

私はペコッと頭を下げた。

「じゃあ室内入ってて」

「了解しました」

リリたちは振り返り室内に戻る。

Magic that creates a barrier!

「結界張って何してんの?」

サチが結界を通って船に乗ってくる。

「ステータスは?」

私はサチの質問には答えずに聞いた。

「そうそう!コピーしてきたの!ステータスだよ!」

サチはすっと手を空中で動かした。

「見せて」

「はい!」

サチが満面の笑みで私に見せる。

『エマ・シャーロット

 レベル:79

 紋章:赤

 スキル:炎の騎士

 かかっている呪い:なし

 天運:なし

 魔力値:102

 幸運値:45

 防御値:89』

あとは+Lv.19か…。

『アリス・クラエス

 レベル:93』

そこまで見ると私は無理やりジャッジの魔力を吸い取り壊した。

「見なくてもだいたい分かるわ。ありがと」

「魔力返してよ〜」

私は無言で返した。

「ジャッジありがと」

私が室内に入るとサチもついてきた。

リリたちがお辞儀をする。

「どういたしまして〜。…それで?何で結界貼ったの?」

サチが訓練場の扉を開ける。

「修行したいから」

私はリルとフェンの首筋を撫でながら答える。

「ふぅん。一人とか、つまんないね〜」

サチがニヤニヤ笑う。

「いや、一緒にやるってわかってるでしょ。強さも知りたいし…」

(後どれぐらいかもね。ポーションあげてもいいかも)

「えっへへ〜。じゃあ、やろか」

「うん」

私達はそれぞれの立ち位置についた。


▓第五章 訓練場

パンッ!!

サチの杖から薄くピンクに光った光線が発射される。

防御魔法。

「ちょっとぉ。私の攻撃は防御魔法じゃなくて攻撃魔法で防御してっていつも言ってるでしょぉ?」

「防御魔法の癖が在るから」

「でも今言ったからねぇ…」

「わかってる」

ラダヴォート。

「うわぉ。防御魔法っ!!」

「…自分も使ってるじゃん」

「ピーンチだったも〜ん!」

「そう」

構えの体制を取ると、サチが「ストーップ!!!!」と大声で言った。

「…何」

「ミリアーナ強いから使っていい魔法、ルメノーアとデジラーヴァだけね!」

「勝てないよ」

「じゃあ私は…水属性魔法と、雷属性魔法ねぇ…じゃあ私、土属性魔法と樹属性魔法しか使わないから」

「…はぁ。わかった。あと魔法の改良はありで」

「ええ!?…まあいいけど」

ルメラーヴァ。

「はいっ!?合成は聞いてない〜!ロ、ロドガオン!」

サチが土属性魔法のロドガオンで防御する。

「ルメノーア」

水属性魔法で土を溶かす。

デジラーヴァ。

「うわぁん!勝てない!スト───ップ!!!!!!!!!!!!止めてよ!!!!!!」

「うん」

私は高速移動魔法でサチのところまで行くとサチを抱え込み、雷属性魔法の当たらない場所へ逃げる。

「あ、そうだ。ついてくるように改良したんだっけ」

「えええ!?!?どうするのぉ〜〜〜〜〜!!!!」

「大丈夫。防御魔法」

(くそっ!自分で自分の攻撃を防御すると防御魔法の分子を死ぬほど細かくしなければならない。魔力の消費が激しいな)

「わ、私もアイゲスト!」

鉄の壁───鉄壁が空中に浮かぶ。

「少しずつ外側に防御魔法を押し上げてって!」

「…わかってる」

(ぐっ)

魔力が減っていっている。

シャー…。

デジラーヴァが消えてゆく。

「ミリアーナ…!?大丈夫そう!?」

「やば…いかも…」

「魔力回復室、行こ!」

サチが私がさっきしていた体制になる。

「ん〜?でもこうかな。いや空中浮遊魔法かな…」

「どうでもいいだろ…」

私は結局空中浮遊魔法で浮かせた毛布にくるまって魔力回復室に運ばれた。


「お嬢様の魔力はすべて回復しましたよ」

リリがサチに話しかけている声が聞こえ私は薄く目を開けた。

「あっ!!ミリアーナ、起きた〜〜〜〜〜!!良かった〜〜〜!!」

サチが布団越しに抱きついてくる。

「お嬢様っ!」

リリが目の淵に涙をためて言った。

「お嬢様、ご起床なさられましたか」

メアリーとアメリは外で待っていたらしい。

魔力回復室の扉を開けて、ベットの側に寄った。

「大丈夫だよ。起床も何も魔力切れが起きただけだから」

「何いってんのよ、ミリアーナ。貴女、2日寝ていたのに」

「まあいいや。そんで、貴女今Lv.582でしょ」

「おお!Lv.583でした〜〜〜〜〜」

「変わらないよ。それで…」

(残りは+Lv.90か)

私はカバンをあさり、リリに300rs(お金の単位)を渡した。

「+Lv.100のポーション買ってきて」

「承りました」

リリは高速移動魔法でその場から消えた。


「このポーション、買わせていただきます」

私は密かにリリを尾行していた。

なぜなら、ポーションの金額より少し多めにお金を渡したためだ。

(報酬なんだけどな。変なの買ったら面白い)

するとリリはカウンターに手をおいた。

(ん?)

私はすっと首を出した。

リリの手首が持ち上がる。

ーーー:O

ーー・・:Z

ー・ーー:Y

ーーー:O

・・・:S

・ー:A

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・・ー:U

ー・ー:K

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ーー:M

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OZYOSAMA、TUKETEMASUYONE。

「お嬢様、つけてますよね。」

「っ…!?」

(なぜバレた!?)

ー:T

・・ー:U

ー・ー:K

・:E

ー:T

・:E

・ー・:R

・・ー:U

TUKETERU。

「つけてる。」

ーー:M

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ー:T

ー:T

・ー:A

ー・ー:K

・・ー:U

MATTAKU。

「全く。」

私が隠れている柱をちらっと見る。

「お嬢様。買いましたよ。何に使うのですか」

リリは私の隣でポーションを渡した。

「怖いよ」

私は溜め息をつく。

「いつもやっていますよ。ついてくるのかな〜って思いまして」

ゲッ。

「…毎回?」

「いなくても、です」

「…変な人だね」

「確かにスパイがいたら何をしているのか、と思われますね」

リリはクスッと笑った。

「…じゃ、船に帰ろ」

「はい!」

リリは私を抱え込み、高速移動魔法で船まで戻った。


これで一巻は終わりです。


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